こちらの記事でLovely Composerを紹介しました。
このソフトは4トラック+コードトラックの構成です。
各トラックは単音のみという制限があり、コードトラックでは和音やアルペジオパターンを奏でることができます。
4トラックのみを使うとファミコンサウンドのような構成に、コードトラックを加えると拡張音源(往年のコナミ作品のように、カセットにチップを埋め込んで音色や同時発音数を増やしたもの)に近いニュアンスになります。
サンプルとして提出した曲以前にも何曲か制作したのですが、選択肢が絞られているからこそ、迷いなく本質的な音楽表現に向き合えるという魅力を改めて感じました。
現代のDTM環境は、DAWソフト一つを取っても膨大なプラグインが付属し、「定番」と呼ばれるソフトやプラグインが無数に存在します。
さらにセールが日替わりで行われる状況下で、初心者は選択肢の多さに戸惑うことでしょう。


FL STUDIOデフォルトのプラグイン。これでもまだほんの一部。
私自身、音楽活動において様々な機材を渇望し、憧れのアーティストと同じサウンドを追い求めた時期がありました。
しかし皮肉なことに、「何でもできる」環境が整ってくると、むしろ制約のある環境での創作に新鮮な魅力を見出すようになったのです。
ハードウェアのシンセも、かつては1台で何でもできる「ワークステーション」が理想とされましたが、PCとソフトの自由度が圧倒的に高まった今、「これしかできないけど、これだけは負けない」という機能特化型の製品を組み合わせる方式が主流となっています。
歴史を紐解けば、俳句、水墨画、ファミコンサウンドなど、制約の中から生まれた名作は数多くあります。
一方で、潤沢な予算と人材を投じた大作が失敗する例も少なくありません。
創作者の多くは、時間、予算、技術的制約との闘いを余儀なくされます。
しかし、「アイデアが湧かない」という停滞は、むしろ選択肢の過多がもたらす創造性の麻痺かもしれません。
特定のゲームをこよなく愛する人が自ら課す「縛りプレイ」のように、創作活動においても自発的な制限が新たな可能性をもたらす場合があります。
物理的な「断捨離」や「取捨選択」だけでなく、デジタルツールや情報においても、意識的な取捨選択が求められる時代が到来したのではないでしょうか。