同人音楽CDの制作コストと価値について

目次

はじめに

dual-axisシリーズの共作などで15年以上お世話になっている、K.S.T.MusicのK’s-traXさんが「同人CDのコストについて」という非常に詳細かつ興味深い記事を執筆されていました。
通常、こういった創作に関する細かいコストを算出し、まとめられている記事をほとんど見たことがありませんので、資料として非常に価値が高いと思います。

同人CDのコストについて

私もK’s-traXさんも、20年以上CDをリリースしており、お互いにそのリリースは20枚以上を超えていますが、音楽CDの制作には、様々なコストが発生します。

・CD制作費(プレスまたはCD-R)
・ジャケットデザイン費
・マスタリング費用
・楽曲制作関連費用
・イベント参加費
・その他付随する諸経費

これらのコストは、制作手法や外注の範囲によって大きく変動します。
上記のK’s-traXさんの記事の試算を引用すると、

50枚制作の場合:

完全自主制作:原価381円/枚
部分的な外注:原価780~1,080円/枚
フル外注:原価1,806円/枚

となり、フル外注の場合は概ね1枚2,000円で販売しなければ原価割れを起こすことになります。
私の作品の場合は、K’s-traXさんが示されたパターン②と③の中間になりますので、1枚あたりの原価が1,000円を超えない範囲で制作しています。
もっとも、ここには交通費などのいわゆる販管費は含まれないため、1回の即売会で即黒字ということはほとんどありません。

利益と自分が表現したいことのバランス

インターネット上の音楽配信が完全に主流となった昨今で、「なぜCDを作るのか」という意見もあると思います。
制作コストの観点から見ると、配信の方が効率的であるのは間違いないでしょう。
しかし、物理メディアとしてのCDには、単なる音楽の媒体以上の価値があると私は考えています。

同人音楽活動は、完全なビジネスでもなく、純粋な趣味でもない領域に位置しています。
もちろん純粋に趣味として活動している人やサークルも多いですが、その中にはいわゆる「ハイアマチュア」に位置づけられるクリエイターやサークルもあります。
プロフェッショナルな技術と表現を追求しながらも、商業主義に偏りすぎない。

昨今ではダウンロードカードなど半デジタルのような販売形態もありますが、逆にカセットテープやレコードなどを販売しているサークルもあり、この多様さが同人音楽の魅力の一つとも言えるでしょう。

引用元:https://www.m3net.jp/about/index.php M3とは

日本ならではの特色

局地的ながら物理メディア(CD)にもまだ価値があるという概念は日本ならではと言われています。
日本は中国やアメリカと比べると国土が狭く、新幹線や高速道路などのインフラが発達していることから、全国どこからでも主要都市への移動が容易です。

即売会や音楽イベントに参加するために、応援しているアーティストに会いに行くことも、それほど困難ではありません。
この「物理的な近さ」は、日本の同人音楽シーンを支える重要な要素の一つと言えるでしょう。

行政書士と音楽活動の相乗効果

私は行政書士として1年間活動する中で、重要な気づきを得ました。
それは、どんなにインターネットやSNSが発達しても、「人と人との直接的な出会い」の価値は変わらないということです。
むしろ、コロナ禍の移動制限の時代を通じて、逆にリアルな人間関係の構築がより重要になっているのかもしれません。

行政書士の仕事は、基本的に依頼者との信頼関係の上に成り立ちます。
同様に、音楽活動も、単なる音楽の提供以上の、人とのつながりを生み出しています。
この二つの活動は、一見異なる分野のように見えて、実は「人との関係構築」という点で深く結びついているのです。

CDという選択の意味

物理メディアとしてのCDを選ぶことは、私にとって以下のような意味を持ちます。

・クリエイターと受け手との直接的な接点
・作品への想いを形にする手段
・コミュニティとの繋がりを生む媒体

私はいわゆるデジタルネイティブと言われる世代より前の人間なので、「形あるもの」に一定の価値を見出す人間です。
それはゲームにせよ、シンセサイザーにせよ、最近はレゴブロックにハマってたりしますが、そうした目に見えて形として完成させることにモチベーションを見出すからこそ活動を続けていけるのだと思います。

新たな可能性:非営利活動としての展開

しかし、これまでの制作コストの分析から明らかなように、同人音楽活動で短期的な利益を上げることは容易ではありません。
K’s-traXさんも元の記事で以下のことを述べられていますが、概ね私も同意見です。

同人CDと言う事であればビジネスでは無いので何処まで赤字を許容するのかも判断の一つになると思います。
可能であれば利益が出て、次の活動に回せる資金が出来ると良いとは思いますが、そこまで出来るサークルは多くはありません。
CDの販売価格も相場がありますので、相場より高すぎると手に取って貰えない可能性も出てきます。
価格と売れ行きの狭間で悩む事が多いとは思いますが、そこはある程度割り切って考える必要があります。

引用元:https://note.com/kst58/n/n61d367a2fdc6 同人CDのコストについて

一方、私は行政書士として様々な団体の活動に関わる中で、新たな気づきを得ました。
それは、必ずしも営利活動にこだわる必要はないのではないか、という視点です。
音楽活動を非営利団体の活動の中に組み込むことで、以下のような新たな展開も考えることができます。

・地域の文化振興への貢献
・公共団体との連携の可能性
・助成金等の活用機会
・より純粋な芸術活動としての展開

特に地方では、以下のような形での活動が考えられます。

・地域の文化事業への参加
・教育機関との連携
・地域振興イベントでの演奏
・地域コミュニティとの協働

これらは単なる理想論ではありません。
むしろ、利益追求型のビジネスモデルが成立しにくい現状において、より持続可能な活動形態となる可能性を秘めています。

長浜市では「NPOはまかる」さんという、主に演劇を中心に活動し、文化活動と地方貢献の両立を非常に高いレベルで実現されている団体があり、私もその活動を大変参考にさせて頂いています。

ちなみに「非営利団体」とは、「利益を上げてはいけない」という意味ではありません。
最終的な利益(売上から各経費を差し引いて残った金額)をメンバーで勝手に分配してはいけないという意味になります。
つまり、活動によって得た収益は更に次の活動のために充てるという趣旨は、個人で活動している音楽サークルが非営利団体に転向するにあたってほとんど制約は無いと言えます。
もちろん、充分な収益性がある場合は営利法人(いわゆる株式会社)への転換も一つの道と言えるでしょうし、団体を作らないまま個人の活動として、地方貢献と両立したビジネスの展開を探るという方針も考えられます。

これからの展望

時代は確実に変化し、音楽の届け方も、ビジネスの形も多様化しています。
しかし、「人と人との繋がり」という本質は、おそらく変わることはないでしょう。

私は行政書士の開業時に銀行から融資を受けようとしたところ、担当者の方から「これまでの音楽の実績ももっと前面に出して、行政書士と2本の柱でやっていくのも面白いのではないか」とアドバイスを頂きました。
実際にお金を出資する権限を持っている方からの音楽への着眼点とフィードバックは、私にとっても大きな意味を持つものでした。

私は、行政書士と音楽活動という二つの領域で活動することで、様々なシーンで活躍する人との出会いに恵まれたと感じています。
一見、非効率に見える投資や活動、結びつきそうにもないお互いの事象や環境も、長期的な視点で見れば、かけがえのない価値を生み出すことがあります。

これからも、コストと価値のバランスを考えながら、しかし決して形式的な効率だけを追求せず、双方の活動を続けていきたいと思います。

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