他のクリエイターに納品を依頼する時の注意点(著作権からの観点)

目次

はじめに

音楽に関わっている方ならご存じのサウンドハウスさんで”「オリジナル曲」や「歌ってみた」動画の一枚絵をイラストレーターに依頼する流れ“という記事が公開されています。

詳細かつ分かりやすい記事だと思いますが、私は行政書士として著作権関係のサポートも行っており、今回は著作権や民法についての補足を以下に記述したいと思います。

上記の記事では作曲者(編曲者)とイラストレーターのみが登場人物で、厳密には作曲者と編曲者は異なる概念ですが、この記事では同一人物であるものとします。
またこの記事において 作曲者 = 依頼者(発注者)、イラストレーター = 受注者 とします。

著作権について

まず、作曲を行った人はその音楽の著作権が、イラストレーターにはイラストの著作権が発生します。
これは著作権についてあまり詳しくなくても何となく理解できる方が多いのではないかと思いますが、自分のお金や車などと同様に、「財産権の一種」として扱われますので、他人に譲渡することもできます。
また、著作権(著作者人格権)の発生に、プロやアマチュアといった区別は存在しません。

著作権と著作物については、私の行政書士のホームページの方で記事にしていますのでこちらを参照ください。

著作者人格権について

作曲者とイラストレーターそれぞれに著作者人格権という権利が発生します。
著作者人格権の詳細については、以下に記事にしていますのでこちらを参照ください。

著作者人格権について簡単にまとめると以下の通りとなります。

著作者(著作物を生み出した者)に当然に付随する人格・名誉を守るための権利
・著作物の公表の有無、公表する場合の条件を定めことができる(公表権)
・著作物に著作者名を付けるかどうか。付ける場合は、本名(実名)か変名(ペンネーム等)かを決めることができる(氏名表示権)
・著作物の題名や内容を第三者が勝手に改変できない(同一性保持権)
・著作者人格権は相続したり他人に譲渡することができない(一身専属権)

各権利のまとめ

クリエイター著作権著作者人格権
作曲(編曲)者楽曲に対して本人に帰属
イラストレーターイラストに対して本人に帰属

契約上の注意

上記の点を踏まえ、契約にあたっては以下のような注意が必要となります。

クリエイターの著作権はそれぞれに帰属する(譲渡契約を行うなら別途その旨の合意が必要)

楽曲(動画)で使用するためにイラストを描いてもらった場合、そのイラストの著作権はイラストレーターに帰属します。
お金を払ったからと言って、それ以外の用途などにイラストレーターの承諾なく使用することはできません。

「この楽曲のためだけにこのイラストを使いたい」と思う方もいるでしょう。
その場合は、「イラストの著作権の譲渡」を契約に記載し、双方で合意をすることになりますが、その場合は権利の買い取りということになり、逆にイラストレーター側でその作品を自由に使用できなくなるので、「単にイラストを描いてもらう」場合よりも相応に高い報酬を持ちかけるべきでしょう。

著作権の移転は当事者間の合意だけでも可能ですが、文化庁に移転の登録を行わないと、第三者に対してそのことを主張できないという規定があります。(著作権法第77条)

著作権の移転を行わない場合でも、「〇年間は作曲家がイラストを独占的に使用する権利を持つが、その後はイラストレーターが他の用途で使っても構わない」や、「作曲家の独占使用契約期間にあってもイラストレーターはSNSやイラストサイトに自ら公開する分には構わない」など、柔軟な使用方法を定めておくのも良いでしょう。

著作者人格権を遵守する

上記で説明した通り、それぞれのクリエイターには著作者人格権という権利があります。
これを作曲者からイラストレーターに依頼した場合を踏まえると、イラストレーターには以下の権利が発生します。

・自身の意図に反して公表されない(公表権)
基本的には作品は公表される前提で話をすると思いますが、例えばイメージやラフ画など、作品を完成させる途中でイラストレーターから提示されたものを作曲者が無断で公表することはできません。

・自身の名前を表示するか、しないか、する場合は実名なのかペンネームにするかを選択できる(氏名表示権)
完成した作品をインターネット上にアップロードする場合など、イラストレーターは氏名表示権を行使できます。
名前を表示するとした場合は可能な限りクレジット等で掲載しなければいけませんし、ペンネームの記載を希望しているのに実名を記載するといったこともしてはいけません。

・自身の意図に反してイラストを無断で改変されない(同一性保持権)
ここでいう改変はやむを得ないものは除かれますが、例えば動画形式にする際にトリミング等が必要になるのか、エフェクトによって歪ませたりなど、イラストに改変を加える場合は事前に確認・合意を取るべきと言えます。

・著作者人格権は相続したり他人に譲渡することができない(一身専属権)
著作者人格権はその本人固有に発生する権利のため、相続や他人に譲渡することはできません。
つまり、「著作権の一切を譲渡する」という契約を結んだとしても、著作者人格権はその本人に帰属するため、上記の公表権・氏名表示権・同一性保持権はその本人が主張できるということになります。

著作者人格権の不行使契約について

上記で著作者人格権は譲渡することができないと書きましたが、例えば著名な人物(政治家やアイドルなど)が自書を出版する際は、自分自身で書くのではなくインタビューなどに沿ってゴーストライターが執筆するというのは今日において特別なことではありません。
しかし、後になって「実はあの本は自分が書いたのだ」と発表されるとややこしいことになってしまいます。

このような場合においては「著作者人格権の不行使契約」を締結する場合がありますが、今回のケースに関しては作曲者がイラストレーターに対してそれを要求するのは行き過ぎであると言えます。
どうしても部分的な改変などが必要であれば、その部分のみ事前に合意を得ておくなどの方が良いでしょう。

契約とは

そもそも契約とはどういう要件で成立するのでしょうか?
民法522条に規定されています。

第522条
1. 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2. 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

出典:民法第522条 https://ja.wikibooks.org/wiki/%E6%B0%91%E6%B3%95%E7%AC%AC522%E6%9D%A1

契約は原則としてお互いの承諾で成立します(諾成契約と言います)。
その場の口頭の承諾「それやって」「いいよ」という会話でも成立し、契約書などがなくても契約自体は成立します。
ではなぜ覚書や契約書を残すかというと、後にトラブルになるリスク(言った言わない)の対策
のためとなります。

納期や報酬についての記載はもちろんですが、ここまでに挙げたように作品の著作権についての取り決めもしっかりと文書化しておいた方が良いでしょう。
これは何度も依頼している方や付き合いの長い方であっても、文書として残しておくことは大事です。

私も音楽制作などで他の方に依頼する場合は基本的に覚書(テキストデータ)を送付してやり取りを行っています。

なお、今回は作曲者とイラストレーターの関係ですが、ボーカリストに依頼する場合なども大筋は同じです。
(ボーカリストの場合は著作者ではなく「実演家」と呼ばれ、権利に関する扱われ方が少し異なります)

さいごに

現在ではインターネットを通じてお互いに会うことなく依頼をしたり、何かの作品を一緒に作ることも珍しくありません。
だからこそ、前もってしっかりとした取り決めをしておかなければ後々のトラブルに発展する危険性も高いと言えます(民法には損害賠償の規定もあります)。

著作権はクリエイター一人ひとりが持つ権利ですが、理解するためには複雑な面もあります。
今後もこの音楽用のサイトと、行政書士のサイトで著作権に関する解説は随時行っていきますので、少しでも役立てて頂ければ幸いです。

しっかりとした契約書作成などをご希望の場合は、行政書士の業務として承りますのでご相談ください。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次